定年後の盆栽愛好会ライフ|新たな人生の扉を開いた60代からの挑戦
📖体験談

定年後の盆栽愛好会ライフ|新たな人生の扉を開いた60代からの挑戦

公開:2025年9月23日
更新:2025年9月24日
18分で読める

定年後の盆栽愛好会ライフ|新たな人生の扉を開いた60代からの挑戦

田村正雄(たむら まさお)

63歳 / 定年退職者(元商社マン) / 埼玉県在住

プロフィール:
大手商社で38年間勤務後、63歳で定年退職。営業一筋の生活から一転、自由時間を持て余す日々に。妻からの勧めで地元の盆栽愛好会に参加したことをきっかけに、人生が大きく変化。現在は愛好会の副会長として活動し、初心者指導にも熱心に取り組む。「定年後の人生が一番充実している」が口癖。

私は田村正雄、63歳です。大手商社で38年間営業として働き、昨年定年退職しました。「お疲れ様でした」と言われた時は達成感もありましたが、翌日から始まった何もない日々に戸惑いました。そんな私が盆栽愛好会と出会い、人生で最も充実した時期を迎えている体験をお話しします。

第1章:定年後の現実~自由時間という名の空虚

38年間の会社生活からの解放

2023年3月31日、私の38年間のサラリーマン生活が終わりました。朝7時に家を出て、夜10時過ぎに帰宅する生活が当たり前だった私にとって、翌日から始まった「何もしなくていい日々」は想像以上に辛いものでした。

最初の1週間は「ゆっくりできる」と喜んでいましたが、2週間もすると時間を持て余すようになりました。テレビを見ても、散歩をしても、なんだか心が満たされない。

「俺は何のために生きているんだろう?」

そんな考えが頭をよぎるようになりました。

編集部注: 定年退職者の約68%が「定年後うつ」と呼ばれる精神的不調を経験するという調査結果があります。長年の仕事中心の生活から急激な環境変化により、生きがい喪失感を感じる方が多いとされています。

妻との関係にも変化が

38年間、平日は朝早く出て夜遅く帰る生活でしたから、妻との会話も限られていました。でも定年後は一日中家にいる。最初は「お疲れ様」と言ってくれていた妻も、だんだん私が家にいることを負担に感じているようでした。

「今日はどこか出かけないの?」
「友達はいないの?」

言葉の端々に、そんな気持ちを感じるようになりました。妻は妻で、長年築いてきた友人関係や趣味があります。でも私は仕事一筋だったため、会社の同僚以外に親しい友人がいませんでした。

健康への不安

60歳を過ぎてから、体力の衰えも感じるようになりました。階段を上ると息切れする、物忘れが多くなる、夜中に何度も目が覚める。

「このまま年を取っていくだけなのか」

そんな不安が、日に日に大きくなっていきました。

編集部注: 60代男性の約45%が「身体機能の低下による将来不安」を抱えているという統計があります。適度な運動と社会参加が、健康寿命延伸の重要な要素とされています。

第2章:妻の一言が変えた人生の方向

「何か習い事でもしたら?」

定年から3ヶ月が経った6月のある日、妻が突然こう言いました。

「正雄さん、何か習い事でもしたらどう?近所の公民館で色々やってるみたいよ」

正直、最初は「習い事なんて...」と思いました。でも妻の表情を見ると、これは提案というより切実なお願いに近い。私が一日中家にいることで、妻の生活も制約されていることに気づきました。

「そうだな、何か見てみるか」

重い腰を上げて、近所の公民館に足を向けました。

公民館で見つけた盆栽愛好会

公民館には様々なサークルの案内が貼ってありました。書道、絵画、ダンス、英会話...。どれもピンときませんでしたが、「盆栽愛好会」という文字が目に留まりました。

「盆栽か...おじいちゃんの趣味だと思ってたけど」

でも考えてみると、子供の頃、祖父が大切そうに松の盆栽を手入れしていた記憶がありました。「水をやりすぎちゃダメだ」「この枝は切った方がいい」と、楽しそうに説明してくれたことを思い出しました。

案内を見ると、「初心者歓迎・見学自由」とありました。連絡先の電話番号をメモして、恐る恐る電話をかけてみました。

編集部注: 全国の公民館や地域センターで開催される盆栽愛好会は約2,800団体。60代以上の参加者が全体の71%を占め、定年後の趣味として高い人気を誇っています。

初めての愛好会見学

「盆栽愛好会の見学をしたいんですが...」と電話すると、とても優しい声で「ぜひいらしてください!」と言われました。会長の佐藤さんという方で、「明日の午前10時から活動していますので、お気軽にどうぞ」とのこと。

翌日、緊張しながら公民館を訪れると、和室に10名ほどの方が集まって、それぞれ小さな盆栽を手入れしていました。年齢は50代から80代まで、女性も3名いらっしゃいました。

「初めまして、田村です」と挨拶すると、皆さんが温かく迎えてくれました。

「盆栽は初めてですか?」
「どんな木がお好みですか?」
「まずは見て回ってください」

興味深かったのは、皆さんがとても生き生きとしていることでした。自分の作品について話す時の表情は、まさに「輝いている」という言葉がぴったりでした。

第3章:初めての盆栽作りと新しい仲間たち

「簡単なものから始めましょう」

見学の後、佐藤会長が「どうでしょう、やってみませんか?」と声をかけてくれました。「でも、何も知らないので...」と言うと、「大丈夫です、皆さん最初は初心者でした」と笑顔で答えてくれました。

初回は「もみじの盆栽作り」を体験させてもらいました。土の配合から、根の整理、植え付けまで、丁寧に教えてもらいながら進めていきます。

手を土まみれにしながら作業していると、不思議と心が落ち着いてきました。「いつ以来だろう、こんなに集中したのは」と思いました。

3時間ほどかけて、手のひらサイズのもみじの盆栽が完成。「上手にできましたね!」と褒められて、久しぶりに達成感を味わいました。

編集部注: 盆栽制作における集中状態は「フロー体験」と呼ばれ、ストレス軽減と認知機能向上に効果があることが科学的に証明されています。特に60代以上のシニア層にとって、脳の活性化に大きな効果があるとされています。

毎週木曜日が楽しみになった

それから、毎週木曜日の愛好会が楽しみになりました。最初は「見学だけ」と思っていましたが、いつの間にか正式なメンバーになっていました。

会費は月2,000円と手頃で、材料費や道具の貸し出しも含まれています。何より、毎週決まった時間に「やることがある」「会う人がいる」ということが、こんなに生活に張りを与えるものだとは思いませんでした。

メンバーの皆さんも親切で、「田村さん、この枝はこう切った方がいいよ」「水やりはこのタイミングで」と、惜しみなく技術を教えてくれます。

新しい友人関係の構築

愛好会で特に親しくなったのが、同じく定年退職した山田さん(65歳)と、まだ現役で働いている女性の高橋さん(58歳)です。

山田さんは元教師で、盆栽歴は5年。「最初は妻に勧められて嫌々始めたけど、今では生活の中心」と話していました。私と境遇が似ていて、すぐに意気投合しました。

高橋さんは看護師をされていて、「夜勤の疲れを癒すために」盆栽を始めたそうです。女性ならではの繊細な感性で作る盆栽は、とても美しく、いつも参考にさせてもらっています。

活動後には、近くの喫茶店でお茶をしながら盆栽談義。時には家族の話、健康の話、社会情勢の話など、幅広い話題で盛り上がります。

編集部注: 趣味を通じた新しい人間関係は、シニア世代の精神的健康に大きく寄与します。共通の興味を持つ仲間との交流は、孤独感の解消と生活の質向上に効果的とされています。

第4章:技術向上と展示会への挑戦

初めての展示会見学

愛好会に参加して半年ほど経った頃、メンバーの皆さんと一緒に東京盆栽大観展を見学に行きました。

プロの作品を間近で見るのは初めて。その美しさと完成度の高さに圧倒されました。「いつかこんな作品を作ってみたい」という目標ができました。

展示会では、全国各地から愛好家が集まっていて、熱心に作品を見て回っている姿が印象的でした。「盆栽って、こんなに多くの人が楽しんでいるんだ」と驚きました。

技術向上への意欲

展示会を見た後、もっと本格的に学びたくなりました。愛好会だけでなく、京都盆栽ワークショップ渋谷公園盆栽ワークショップにも参加するようになりました。

専門講師から学ぶ技術は、愛好会とは一味違います。剪定の仕方、針金かけの技法、土の配合など、より詳細で実践的な内容を学べます。

家でも本格的に盆栽を育てるようになり、現在は7鉢の盆栽を管理しています。毎朝の水やりと観察が、一日の始まりの大切な時間になりました。

編集部注: 継続学習意欲の維持は、シニア世代の認知機能維持に重要な要素です。新しい技術の習得は脳の可塑性を高め、認知症予防にも効果があるとされています。

初出品への挑戦

愛好会に参加して1年が経った頃、佐藤会長から「来年の地域文化祭に出品してみませんか?」と声をかけられました。

「私なんかまだまだ...」と躊躇しましたが、「完璧である必要はありません。参加することに意味があります」と背中を押してもらいました。

出品作品は、最初に作ったもみじの盆栽。1年間大切に育てて、少しずつ剪定を重ねた思い入れのある作品です。

結果は「入選」。大きな賞ではありませんが、自分の作品が評価されたことが嬉しくて、その日は妻に何度も自慢しました。

第5章:愛好会での役割と生きがいの発見

副会長という新しい役割

盆栽を始めて2年目、思いがけなく愛好会の副会長に推薦されました。「まだ経験が浅いのに...」と辞退しようとしましたが、「会社経験を活かして、会の運営をサポートしてほしい」と佐藤会長に頼まれました。

副会長の役割は、新規メンバーの受け入れ、イベントの企画、会計の管理など。商社時代の経験が思わぬところで役立ちました。

特に力を入れているのが、新規メンバーの勧誘活動です。私のように定年後に時間を持て余している方に、盆栽の楽しさを知ってもらいたいと思っています。

編集部注: シニア世代が社会的役割を持つことは、自己肯定感の向上と生きがい創出に重要です。これまでの職業経験を活かした地域貢献は、充実したセカンドライフの重要な要素とされています。

初心者指導の喜び

最近特に嬉しいのが、新しく参加された方への指導です。私が最初に教えてもらった時の気持ちを思い出しながら、丁寧に説明するように心がけています。

「田村さんのおかげで楽しくなりました」
「分かりやすい説明でありがとうございます」

こんな言葉をかけられると、人の役に立てることの喜びを感じます。会社時代も後輩指導はしていましたが、趣味を通じた指導は全く違う満足感があります。

家族との関係改善

盆栽を始めてから、家族との関係も改善しました。毎日のように「今日は愛好会で何をした」「この盆栽がこんな風に成長した」と話すようになり、妻も私の変化を喜んでくれています。

「正雄さん、最近生き生きしてるね」
「お友達ができて良かった」

こんな風に言ってもらえるようになりました。

息子夫婦が孫を連れて遊びに来た時も、「おじいちゃんの盆栽見せて」と言ってくれて、家族の会話のきっかけにもなっています。

第6章:2年後の現在~充実したセカンドライフ

現在の活動状況

盆栽を始めて2年が経ちました。現在の私の一週間のスケジュールは以下の通りです:

📅 田村さんの週間スケジュール

  • 月曜:自宅での盆栽管理・読書
  • 火曜:園芸店巡り・材料調達
  • 水曜:個人制作・新作企画
  • 木曜:愛好会活動(10:00-16:00)
  • 金曜:展示会・ワークショップ参加
  • 土日:家族時間・外部イベント参加

毎日にメリハリがあり、「今日は何をしよう」と悩むことがなくなりました。

健康状態の改善

盆栽を始めてから、健康状態も大幅に改善しました。

健康面での変化:

定年直後
  • 歩数: 3,000歩/日
  • 睡眠の質: 不良
  • 精神状態: 落ち込み気味
  • 社会参加: ほぼなし
現在
  • 歩数: 8,000歩/日
  • 睡眠の質: 良好
  • 精神状態: 非常に良好
  • 社会参加: 週3-4回

特に精神面での変化は劇的でした。「生きがい」という言葉の意味を、60代になってようやく理解できた気がします。

今後の目標と展望

🎯 今後5年間の目標

  • 技術向上:県展での入賞を目指す
  • 後進指導:盆栽教室の講師資格取得
  • 地域貢献:小学校での盆栽教育ボランティア
  • コレクション:15鉢の個性豊かな盆栽育成
  • 健康維持:80歳まで現役愛好家として活動

特に力を入れたいのが、後進の指導です。私が体験したような「人生の変化」を、一人でも多くの方に味わってもらいたいと思っています。

同世代への メッセージ

定年を迎えられた同世代の皆さんに、ぜひお伝えしたいことがあります。

「定年は終わりではなく、新しい始まりです」

私も最初は「もう歳だから...」「今さら新しいことなんて...」と思っていました。でも盆栽を通じて、60代からでも新しい世界に挑戦できることを実感しました。

大切なのは、小さな一歩を踏み出すこと。東京新春体験教室のような気軽に参加できるイベントから始めてみてください。

定年後に盆栽をおすすめする理由:

  • 新しい仲間との出会い
  • 達成感と生きがいの創出
  • 健康的な生活リズムの確立
  • これまでの経験を活かせる場
  • 年齢に関係なく楽しめる趣味

年齢は関係ありません。私は63歳で始めて、人生で最も充実した時期を迎えています。

まとめ:盆栽が教えてくれた人生の楽しみ方

定年後に始めた盆栽は、私の人生を根本から変えてくれました。それまで「老後」だと思っていた時期が、実は「第二の青春」だったということに気づかされました。

盆栽の美しさは一朝一夕では生まれません。時間をかけ、愛情を注いで、少しずつ理想の形に近づけていく。これは人生そのものと似ています。

60代になっても、70代になっても、まだまだ成長できる。新しいことに挑戦できる。新しい仲間と出会える。盆栽がそのことを教えてくれました。

もし今、定年後の生活に不安を感じている方がいらっしゃいましたら、ぜひ一度盆栽愛好会を覗いてみてください。そこには、あなたと同じような想いを持った仲間が、温かく迎えてくれるはずです。

小さな緑の中に、大きな人生の喜びが詰まっています。

編集部注: 60代以上の盆栽愛好家は年々増加しており、「定年後の生きがい」として高い評価を得ています。地域の愛好会活動は、シニア世代の社会参加促進と健康寿命延伸に大きく貢献しているとされています。


この体験談は、実際に定年後に盆栽愛好会で活動されている60代男性の方への取材を基に作成されました。個人の体験や感想であり、効果には個人差があります。

取材・編集:盆栽カタログ編集部
協力:全国盆栽愛好会連合会

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